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【音楽コラム】なぜMR.BIGはここまで日本で売れたのだろうか

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はじめに

90年代は所謂ビッグ・イン・ジャパンの時代だった。世界的にはハードロック/ヘヴィメタルの市場が縮小する中で、日本では変わらず売れ続けるという独自のシーンが形成されていた。そんなビッグ・イン・ジャパンの代表といえば、やはりMR.BIGだろう。アメリカでは「To Be With You」の一発屋扱いだが、日本ではその後もアルバムが10万枚単位で売れ続け、解散するまで長く愛されたバンドだった。

ところで、なぜMR.BIGはここまで日本で売れたのだろうか?後追いからすると、これがよく分からないのだ。同じく90年代のビッグ・イン・ジャパンとして語られるFAIR WARNINGやイングヴェイ・マルムスティーンは如何にも日本人好みのメロハーだったり様式美だったりするが、MR.BIGのサウンドはこれらとは全然違う。どちらかと言うと、80年代後半から90年代初頭にかけて発生した、ハードロックのブルース回帰の流れに含まれるバンドだ。

というわけで、MR.BIGの歴代アルバム(1度目の解散まで)の内容とチャートを確認しながら、同時代の他のハードロックバンドとの比較も合わせて考えてみたい。

歴代アルバムを振り返る

1stアルバム『MR.BIG』(1989年)

MR.BIGがセルフタイトルアルバム『MR.BIG』でデビューしたのは1989年。メンバーはエリック・マーティン(ボーカル)にポール・ギルバート(ギター)、ビリー・シーン(ベース)、パット・トーピー(ドラム)と実力派が揃い、”スーパーバンド”として話題になったとか。

さて前述の通り、この時期はハードロックのブルース回帰というムーブメントがあった。派手で綺羅びやかなLAメタルが飽和状態だったこともあり、逆にブルージーで泥臭いスタイルが注目されたのだ。MR.BIG以外だと、TESLAやBADLANDS、THUNDERあたりが有名か。GREAT WHITEやCINDERELLAのように、LAメタルからブルース色を強めたバンドもいた。そんな流れでデビューしたこともあり、このアルバムでは超絶テクニックは控えめで(あくまで控えめであって、「Addicted To That Rush」のようにバカテクを披露している曲もある)、ブルージーで温かみのあるハードロックになっている。

日本では7週チャートインして最高22位を記録。アメリカとイギリスではそれぞれ46位と60位が最高だった。ゴールドディスク(10万枚以上)にも認定されているが、これは1993年の10月と3rdアルバム『Bump Ahead』のリリース後だ。デビュー時点では、まだそこまで人気ではなかった?日本で22位を記録した時期が知りたいところ。同じ1989年にBADLANDS、翌1990年にはTHUNDERがデビュー。それぞれ日本では32位と41位を記録した。また、TESLAも1989年に2ndアルバム『The Great Radio Controversy』をリリース、日本で最高94位に入った。って、TESLAだけ順位が低くないか?超名盤だぞこれ!?ともかく、この時点ではMR.BIGの人気が突出して高い感じはしない。

2ndアルバム『Lean Into It』(1991年)

METALLICAの『Metallica』(通称”ブラックアルバム”)やNIRVANAの『Nevermind』がリリースされて時代が変わる直前の1991年の4月、MR.BIGは2ndアルバム『Lean Into It』をリリースした。

1stではブルース志向が強かったのに対し、2ndではより構築的でポップな仕上がりになっている。「Daddy, Brother, Lover, Little Boy (The Electric Drill Song)」のドリルギターみたいに派手なギミックもあったが、全体的には技巧を削ぎ落として、“歌えるハードロック”を目指した印象だ。その象徴とも言えるのが、アメリカのシングルチャートで1位になる大ヒットとなった、アコースティックバラードの「To Be With You」だろう。他にも「Green-Tinted Sixties Mind」など、キャッチーでメロディアスな曲が多く、完成度の高いアルバムになっている。

日本では10週ランクインして最高6位を記録。アメリカとイギリスではそれぞれ15位と28位が最高だった。また、1992年の5月にゴールドディスク、1994年の1月にプラチナディスク(25万枚以上)に認定されている。1991年はTESLAとBADLANDSもアルバムをリリースしており、それぞれ日本で18位と30位に入った。って、TESLAの順位爆上がりだな!翌1992年にはTHUNDERもアルバムリリース、日本で最高41を記録した。ここで、MR.BIGの人気が抜け出した印象だ。

3rdアルバム『Bump Ahead』(1993年)

グランジの影響で既存のハードロックに逆風が吹き荒れていた1993年9月、MR.BIGは3rdアルバム『Bump Ahead』をリリースした。因みに、NIRVANAの『In Utero』と同週である。

前作の成功もあって、レコード会社から大きなプレッシャーを受けての制作になったらしい。ポップでメロディアスなハードロックは健在ながら、バラード調の曲が増えた。特に、キャット・スティーヴンスのカバーである「Wild World」は、「To Be With You」のようなバラードがほしいという会社側の都合で追加されたとか。また、シンセサイザーやストリングを導入した曲もあり、どうにか期待に応えようという努力を感じる。

日本では17週ランクインして最高6位を記録。アメリカとイギリスではそれぞれ82位と61位が最高だった。また、1993年の10月にゴールドディスク、1994年の3月にプラチナディスクに認定されている。MR.BIGが日本での人気を確たるものにしたのがこの辺りか。1994年にはTESLAが4thアルバムをリリース、日本で31位に入った。また、THUNDERも1995年に3rdアルバムをリリース、日本で最高32位を記録。BADLANDSは1993年に解散した。因みに、前述の『In Utero』は日本では13位が最高。NIRVANAより売れたことで、MR.BIGに対するビッグ・イン・ジャパンのイメージが強まった。

4thアルバム『Hey Man』(1996年)

グランジの波が落ち着いてニューメタルが台頭していた1996年1月、MR.BIGは4thアルバム『Hey Man』をリリースした。

グルーヴィーだったりバラード調だったりブルージーだったりファンク調だったり、多彩な曲が収録されている。悪く言うと、アルバムとしてのまとまりがない印象。今作を最後に、ポール・ギルバートが脱退した。

日本では16週ランクインして最高1位を記録、リリースの翌月にはプラチナディスクに認定された。一方で、このアルバムからアメリカとイギリスではランク外となる。MR.BIGは完全にビッグ・イン・ジャパンになった。同じ1996年にTHUNDERが4thアルバムをリリースするが、日本では50位以内に入っていない。そして、TESLAはこの時期活動休止中。

5thアルバム『Get Over It』(1999年)

ニューメタルが完全にメインストリームになっていた1999年9月、MR.BIGは5thアルバム『Get Over It』をリリースした。

脱退したポール・ギルバートに替わって、リッチー・コッツェンが今作から加入した。ファンクやソウルの要素が強くなって、前作からさらに渋くなった印象。

日本では7週ランクインして最高5位を記録、リリースと同月にゴールドディスクに認定された。MR.BIGは売上的にはピークを過ぎたが、依然として人気を維持している。同じ1999年にTHUNDERが5thアルバムをリリース、日本では最高41位に入った。TESLAはまだ活動休止中。

6thアルバム『Actual Size』(2001年)

世界が大きく変わった9.11の直前である2001年8月、MR.BIGは6thアルバム『Actual Size』をリリースした。

音楽的には、前作の延長線って感じ。このアルバムを最後にバンドは解散した(2009年に再結成)。

日本では7週ランクインして最高5位を記録、リリースと同月にゴールドディスクに認定された。TESLAは2000年から復活して2002年にライブアルバムを、THUNDERは2003年に6thアルバムをリリースしたが、いずれも日本では50位以内に入れず。同時期デビューの他バンドが日本での人気を落とす中、MR.BIGは解散まで人気を保ち続けた。

考察

まず、「メロハー」でも「様式美」でもない、ブルージーなハードロックが日本でも売れていたのが意外だった。特に、日本で全然人気のないイメージだったTESLAが最高18位にチャートインしていたのは驚きである。ただ、TESLAもBADLANDSもTHUNDERもゴールドディスク認定アルバムがなかった(自分調べ)ことを考えると、MR.BIGの人気が突出していたと言える。

では、MR.BIGの人気はどのように上がっていったのだろうか。下の表のように、各アルバムのリリース日とゴールド/プラチナに認定された月をまとめてみるとよく分かる。

アルバムリリース日ゴールド認定年月プラチナ認定年月
1st1989/07/101993/10
2nd1991/04/101992/051994/01
3rd1993/09/251993/101994/03
4th1996/01/251996/02
5th1999/09/151999/09
6th2001/08/082001/08

1stのゴールド認定がリリースから4年後、2ndも1年後と時間がかかっているが、3rdはリリースの翌月にゴールド認定されている。このことから、2ndアルバム『Lean Into It』がきっかけでファンが増え、3rdアルバム『Bump Ahead』で初動売上が大きく増加したと考えられる。さらに、3rdのプラチナ認定はリリースから半年後だったが4thはリリース翌月だったことから、3rdでさらにファンが増えたことが分かる。そして、プラチナ認定は4thが最後なので、4thアルバム『Hey Man』の頃が人気のピークだったと言える。その後はメンバーチェンジもあって人気を落としたが、それでも5thと6thでリリース即ゴールド認定されるだけの固定ファンが残っていた。

要するに、2ndアルバム『Lean Into It』と3rdアルバム『Bump Ahead』で多くの日本人ファンを獲得したわけだ。2つのアルバムに共通しているのは、ポップでキャッチーなハードロックだったりアコースティックバラードの存在だろうか。確かに、TESLA・BADLANDS・THUNDERと比べてもポップセンスが抜けている印象だ。これにより、メタラーではない洋楽ファンも取り込むことができた。これがMR.BIGが日本で売れた理由の1つだろう。

あとは、ポール・ギルバートやビリー・シーンといったスタープレーヤーの存在だろうか。こういうギタリストやベーシストが憧れるプレーヤーがいるバンドは、日本で人気が出やすい印象がある。TESLAとTHUNDERはその辺が弱かったかな。BADLANDSにはジェイク・E・リーというスターギタリストがいたが、アルバム2枚で契約解除されて活動が頓挫してしまった。

また、メンバーのキャラクター性も重要だろう。エリック・マーティンは、端正で親しみやすいルックスと人懐っこいキャラクターで、女性ファンを含めたライト層の獲得に貢献したとか。ポール・ギルバートも、無邪気でユーモラスなキャラがバラエティ受けした。その2人を職人気質のリーダーであるビリー・シーンと高いプロフェッショナリズムでバンドの精神的支柱だったパット・トーピーが支えるという構図で、バンドとしてバランスが良かった。

最後に、バンドが日本を愛してくれたというのが大きかったのではないだろうか。頻繁に来日公演をしてくれたし、インタビューでも丁寧にコメントをしてくれた。日本に対して誠実だったことで、「親日バンド」として日本のファンに愛される存在になった。再結成後だが、東日本大震災の後に海外バンドとしてはいち早く東北に駆けつけてくれた。こうした姿勢により、バンドと日本のファンとの絆がさらに強固になった。

最後に

“ポップでキャッチー”な「音楽性」とメンバーの「スター性」「キャラクター性」で日本のファンを増やし、「親日バンド」としての姿勢でファンを離さなかった、というのが後追いが考えた結論である。この辺は、リアルタイムで聴いてたファンの声を聞いてみたいところ。

2009年にオリジナルメンバーによる再結成を果たしたMR.BIGだったが、2018年にパット・トーピーがパーキンソン病の合併症により死去。バンドは解散を決め、2023年からフェアウェルツアーを開始した。そして2025年2月25日、日本武道館での公演をもってMR.BIGは解散した。

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